週末ごとに郊外へ出かけてみると,たった1週間でも少しずつ自然の様子は変化しています。前の週にはあまり目立たなかった植物が存在感を増し,一方では幅を利かせていた植物が少し勢力を譲る,そんな光景が見られます。今回散策した兵庫県三田市に位置する「田んぼの畦劇場」での今週のキャストは,コセンダングサ,イヌタデ,ミゾソバ,そしてそろそろ主演の座を明け渡すセイタカアワダチソウといったところでした。
このコセンダングサ,私の住む地域では同属のセンダングサの仲間の中では最もよく繁殖しています。センダングサの仲間は,痩果がいわゆる「ひっつき虫」と言われ,服などに触れると先のかぎ状の棘でしっかりとしがみつき,ちょっとやそっとでは離れてくれません。
痩果の集まりが,ざっと40~50はあるでしょうか。
いったんついてしまうと,小さいだけに取るのもなかなか苦労します。
では,この痩果,いったいどのようにしてひっつくのでしょうか。ちょっと拡大して構造を見てみます。
すると,びっくり。
たくさんの棘のようなものが確認できます。
もっと拡大してみると,その構造のすごさがさらに分かりました。
角の部分(「のぎ」と言います)の棘の向きと,本体部分の棘の向きが反対方向に向いて付いているのです。
なるほど,棘の向きが1方向にしかないと,すぐに抜けてしまうかもしれませんが,棘がいろいろな方向を向いていることで,触れたものにあらゆる方向から棘を固定し,ひっつく構造になっています。
いいえ,これは「ひっつく」というよりも「つかむ」といったほうが近いように思います。
いやあ,驚きました。
私はずっと痩果の先にある角のような部分が突き刺さってひっつくのだと思っていましたが,そんな単純なことではなかったのですね。
辺りを見渡してみると,ほかにもひっつき虫の仲間が見られました。
これは,同じセンダングサの仲間のアメリカセンダングサの痩果です。
ジーンズの生地にも簡単にひっついています。
拡大してみると・・・。
棘の向きがお分かりでしょうか。やっぱりお互いに反対向きに付いています。
生きる知恵の素晴らしさを今回も再確認しました。
さて,話は変わります。
これらは「ひっつき虫」と呼ばれますが,どうして「虫」なのでしょうか。
草むらを歩いていて,ふと気がつくと,服やズボンに小さいものが無数に付いている・・・。
初めてそんな経験をしたときは,びっくりするものです。「うわあ!たくさんの虫が体に付いている!!」一瞬,そう考える人も多いでしょうし,その数の多さに思わずぞっとすることと思います。
私は今でもびっくりします(^o^)
そして,あらためてこのアメリカセンダングサの痩果を見てみると,その形状は何となく虫に近いような気がします。2本の角をもつクワガタの仲間,またはタガメにも近いでしょうか。
でも,私が思うに一番近いのは,オオムラサキの幼虫。しかも大木のエノキの落ち葉の下で春を待ちながら冬眠している時期の幼虫そっくりに見えます。
いかがでしょうか。
並べてみます。
形としては,いかにも似ているように思えます(^^)
そう考えると,「ひっつき虫」の名称も至極納得のいく,うまいネーミングだと思います。
ついでに今回出会った「ひっつき虫」をほかにも挙げると,
イノコヅチの実。
拡大してみると・・・。
矢印の部分は「包葉」と呼ばれ,この2枚の葉で,触れたものにひっつきます。
こんな感じですね。
センダングサの仲間に比べると,ひっつき具合は弱いです。
でも考えてみると,いつか落ちないことには子孫を残せませんので,ある程度運んでもらって落としてもらうという道を選んだのかもしれません。
そして,このイノコヅチ,私には昆虫のウンカの仲間そっくりに見えます。(写真が撮れたらまた載せます。)
ほかにも,これもよく「ひっつき虫」の仲間として挙げられる植物ですが,
ヌスビトハギの実。
同じく拡大してみると・・・。
細かい毛がたくさん生えています。この無数の毛の先は,鉤状になっています。
毛の数が多いからでしょう。これはなかなか強力なひっつき方です。
子孫を広げるためのそれぞれの植物の工夫に感嘆します。
ところで,昔はよく見た「オナモミ」を探したのですが,今回見つけることはできませんでした。
そういえば,最近あまり見かけません。調べてみると,「オナモミ」自体は,戦後急速に減り,西日本では絶滅したという話が。私が子どもの頃に遊んだオナモミは,実は「オオオナモミ」だったようです。しかし,その「オオオナモミ」すら,私の住む地域ではほとんど見かけません。
他の動物にひっついて子孫を広げるというすごい戦略をもつ植物も,人間の開発によってその生命をつなぐ術を断ち切られつつあるのかもしれません。
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