蝶の幼虫というと,敬遠される方も多いかとは思いますが,育ててみると案外楽しいものです。
与えられた葉を一生懸命食べる姿は,なかなかキュート。
私が最初に育てたのはモンシロチョウでしたが,無事に成虫になってくれたときの感動は今でも覚えています。
さて,前置きは以上として,今回は国蝶オオムラサキの幼虫の見つけ方について「探す時期」「探す場所」「木の大きさ」「探し方」などについて書いていきたいと思います。
探す時期
蝶は,その種類によって食草(幼虫の食べる葉)が決まっています。
オオムラサキの食草(幼虫の食べる葉)は,エノキです。
そのため,まずエノキの木を見つけることが大前提となります。
(エノキの見分け方については,このサイト内の「これから木の名前を覚える人に」を参考にしてください。)
ただ,エノキの葉をやみくもに探しても簡単に見つかるものではありません。何せエノキは大木になる木です。よじ登って葉を一枚一枚調べていくのは大変な作業ですし,危険です。
私はオオムラサキの幼虫を見つけるには,冬がいいと思います。
エノキは落葉樹です。そのため,冬にはほとんどの葉を落とし,幹の周りはエノキの葉でいっぱいになります。オオムラサキの幼虫は,エノキが葉を落とす頃,枝を伝って幹を地面に向かって下り,このたくさんの落ち葉の裏でじっと冬を越すのです。
つまり,冬の時期にエノキの落ち葉をめくっていくと,冬越しをしているオオムラサキの幼虫に出会えるということになるのです。
探す場所
では,さっそくエノキを探してみようということになりますが,実はどのエノキにもオオムラサキがいるということはありません。オオムラサキの成虫は,花の蜜を吸う多くの蝶とは異なり,木の樹液を吸います。そのため,樹液を出す木があるところを生活の場としています。クヌギやコナラの樹液に集まるクワガタやカブトムシと同じです。
ところが,樹液を出す木はどこにでもあるわけではありません。町中では木の数自体が少ないため,余計にそうした木の数は少ないでしょう。
つまりは,木の数や種類が多く集まる場所,森や林の中等が必然的にオオムラサキの生活の場所となります。生活の場所がそうしたところとなれば,卵を産み付けるのも当然森や林の中にあるエノキの葉ということになります。
ということは,いくら町中の公園や街路樹を探しても,見つかる確率は低いと言えるでしょう。やはりできれば山の中に入り,その中のエノキを探すと良いでしょう。
木の大きさ
まだ若いエノキは葉の数も少なく,幼虫が十分葉を食べることはできません。そうしたエノキに卵を産むよりは,やはり大木の葉に産んだほうが,幼虫は安心して葉を食べることができます。
これは想像ですが,他の蝶例えばクスノキに卵を産むアオスジアゲハにも同じことが言えるような気がしています。親の蝶は,卵から孵った幼虫がすぐに餌を食べられるよう,まだ柔らかい若葉を探して卵を産みますが,いくら幼虫が食べやすそうな柔らかい若葉があったとしても,まだ成長しきっていない若木にはあまり卵を産み付けません。これは,子どもを育てるための親の本能ではないかと私は思います。
親の蝶はたくさんの葉を茂らせた大木を探して卵を産み付けるのです。つまり,幼虫を探すには,できるだけ大きな木を探すとよいでしょう。
探し方
先述しましたが,幼虫は幹を下りて落ち葉の裏に身を隠すようにして冬を越します。そして,春が来ると冬眠から目覚め,逆に幹を登って芽吹いた柔らかい葉を食べるのです。ということは,エノキの幹からあまり離れた所に行ってしまっては幹を探すのに苦労しますし,見つけられなければ葉を食べることはできません。
つまり,冬越しをする葉は,幹のすぐ近く,大きく見積もっても幹を中心に半径1m以内ほどではないかと思われます。
というわけで,幹のすぐそばの葉を一枚一枚めくって探すのが幼虫を見つけるためには効率的な探し方となります。
まとめ
時期は冬。落葉樹が葉を落としきった頃に,できるだけ樹木の多い森や林の中のエノキの大木を探し,幹の近くの落ち葉を一枚一枚ひたすらめくっていくとかなりの確率でオオムラサキの幼虫を見つけることができます。
私の経験では,こうした条件が揃っていれば,15枚~20枚に1匹の確率で幼虫を見つけることができました。
ゴマダラチョウ
オオムラサキの幼虫を探していると,一緒に見つかるのがゴマダラチョウの幼虫です。オオムラサキの仲間ですので,幼虫の姿もよく似ています。違うところは背中の突起の数。
オオムラサキの背中には明瞭な突起が4つありますが,ゴマダラチョウは頭から数えて2つ目の突起が小さくて目立たないため,明瞭な突起はぱっと見て3つに見えます。
また,ゴマダラチョウの幼虫のほうが,全体の印象として優しい感じ。オオムラサキのほうが無骨な感じがします。
例えは正しくないかもしれませんが,オオムラサキの幼虫は鎧を身にまとった戦国時代の「武将」,ゴマダラチョウの幼虫は身軽に動き回る「足軽」といったところでしょうか。
こぼれ話
これまでに何度も見つけてきたオオムラサキの幼虫ですが,家に持ち帰り育てようと試みても,うまくいきませんでした。
私の住む地域と山の気候が違うため,できるだけ山の気候に近づけようと冷蔵庫に入れて冬越しの環境を維持し,エノキの若葉が出る頃に柔らかい葉を与えましたが,最初は順調に育つとみえた幼虫が,なぜか途中でお亡くなりになるというかわいそうなことが続き,未だに成虫にまで育てることができていません。
やはり,繊細な野生の生き物は,そこにあった環境があるのだと思います。
もし,何らかの方法で育てることができたとしても,きっといろいろな負担をかけることになるでしょうし,自然の生き物は自然の中で育つのが幸せなような気がします。そのためそれ以来,私は連れて帰ることをやめています(*^^*)
オオムラサキの育つ環境を大切に見守りたいと思います。
実際の探し方解説
これがオオムラサキの幼虫を見つけたエノキの木です。周りは山に囲まれ,雑木林となっています。コナラやクヌギ,ミズナラ,ウリハダカエデなど樹種が豊富です。
枝の様子です。四方に枝を伸ばし,葉をつける時期には,きっと周囲を圧倒するほどの豊かな緑を身にまとうと思われます。
写真では分かりづらいと思いますが,近づいてみると,直径2.5m以上はあるでしょうか,抱きついてもまったく腕が回りません。間違いなく大木の部類に入るでしょう。
幹の根元を見ると大量の落ち葉が。ふかふかしていて,幼虫が冬を越すにはもってこいの環境のように思われます。
近づいてみますが,幼虫がいたときに踏んでしまってはいけないので,根元付近までは行きません。この落ち葉の裏のどこかにオオムラサキの幼虫は眠っているはずです。
一枚一枚めくってみます。めくること約10枚目。
いました!
と思ってよく見てみると,ゴマダラチョウの幼虫でした。
さらに探していきます。
25枚ほどめくったとき,いました!
今度こそ間違いなくオオムラサキです。
並べて比べてみます。
上がゴマダラチョウ,下がオオムラサキ。
ゴマダラチョウのほうがちょっとソフトな印象です。
突起の違いも分かりますでしょうか。
このあとも何匹か見つけました。その後は,また葉っぱをそっと裏向けて現地を後にしました。
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